生理の貧困対策とキャンパス環境整備:日本工業大学が導入した無料生理用品サービス「OiTr」の意義

生理用品を必要とする人々へのアクセスを容易にするサービス「OiTr(オイテル)」が、教育機関にも広がりを見せている。このたび、未来を担う若者が集まる日本工業大学 埼玉キャンパスにOiTrが導入されたことは、社会課題解決への取り組みと、多様な学びの環境整備という二つの側面から注目に値する。

注目される背景・社会的な動き

OiTrが登場した背景には、「生理の貧困」と呼ばれる社会課題がある。「生理の貧困」は、経済的な理由だけでなく、清潔な水や衛生環境、生理に関する正しい教育へのアクセス不足も含む広範な問題である。これは個人の問題に留まらず、社会全体で向き合うべき課題として認識され始めている。

2019年のジェンダーギャップ指数で日本が153ヵ国中121位であったことにも示されるように、女性の社会進出が進む一方で、生理に伴う心身の負担、経済的な影響、キャリア形成における機会損失といった課題も指摘されている。

OiTrは、このような社会課題をビジネスの力で解決しようとする「ソーシャルビジネス」の一環として生まれたサービスである。「いつでも、誰もが、安心して生理用品を手に入れられる」状態を作ることで、生理に伴う様々な負担を軽減し、女性がより安心して社会生活を送れるようサポートすることを目指している。

プロダクトやサービスの概要

OiTrは、女性用トイレの個室に生理用ナプキンを常備し、無料で提供する日本初の取り組みである。トイレットペーパーが当たり前のように備え付けられているように、生理用品もいつでも手に入るようにすることを発想の原点としている。

サービス利用には、無料の専用アプリ「OiTr」をスマートフォンにダウンロードし、簡単なユーザー登録を行う。設置場所のトイレでアプリを操作することで、ディスペンサーからナプキンが1枚払い出される仕組みである。

受け取りには制限があり、一度受け取ると次の受け取りまで2時間の制限があり、25日間で最大7枚まで受け取ることが可能である。これにより、本当に必要な人が利用できるよう配慮されている。

現在、OiTrは全国の28都道府県、307施設に3,445台(2025年6月時点)設置されており、商業施設や交通機関、公共施設、オフィスなど、様々な場所で利用機会が増加している。

OiTr ディスペンサー設置イメージ

OiTrの設置場所を詳しく見てみる

導入事例:日本工業大学

2025年7月5日、日本工業大学 埼玉キャンパスにOiTrが新たに導入された。埼玉県南埼玉郡に位置するこのキャンパスには、約4,000人の学生が「実工学」を学んでおり、そのうち女子学生は約400人、全体の約10%を占める。

大学側は、今後の工学・技術分野の発展には「多様性」が不可欠であると考え、性別にとらわれない学びの環境整備に力を入れている。OiTrの導入も、こうした多様性への配慮と学生サポートの一環として行われた。急な生理による不安や、学業への集中阻害を防ぎ、学生が安心して学べる環境を整えることを目的としている。

日本工業大学では、OiTrの他にも女性専用パウダールームの設置や、体調不良時に利用できる生理休養制度(F休養)の導入など、女子学生がキャンパスライフをより快適に、より充実して送れるようなサポート体制を構築している。

日本工業大学 埼玉キャンパスに設置されたOiTrは6台である。設置場所の詳細は以下のリンクで確認できる。

日本工業大学 埼玉キャンパスの外観イメージ

OiTrが設置されたトイレ個室のイメージ

日本工業大学 埼玉キャンパスのOiTr設置場所

ユーザーにとっての価値・導入メリット

OiTrのようなサービスの導入は、利用者である学生にとって、急な生理時の不安を解消し、学業に集中できる環境を提供するという直接的なメリットがある。また、大学側にとっては、多様な学生が快適に学べる環境を整備することで、大学全体の魅力向上や、ダイバーシティ推進という点で価値がある。

生理用品の無料提供は、単なる物資の提供に留まらず、「困った時に助けてもらえる」という安心感を生み出し、キャンパスライフの質を高めることに貢献する。

今後の展望・市場性

OiTrのようなサービスの広がりや、教育機関での導入は、社会全体が生理に関する課題や女性の健康にもっと目を向け、誰もが安心して過ごせる環境を作ろうという意識の変化を示唆している。「生理は恥ずかしいこと」「自分でなんとかすべきこと」といった旧来の考え方から、「誰もが経験する自然なことだから、社会全体で支え合おう」という新しい常識への転換を促す可能性がある。

トイレットペーパーのように、生理用品が当たり前のようにトイレに備え付けられる社会。そして、生理に伴う負担によって学びや活躍の機会が失われない社会。OiTrのプロジェクトが目指す、そんな未来の実現が期待される。

このようなソーシャルビジネスの広がりは、企業のCSR活動や社会貢献の新たな形としても注目される。ビジネスの力で社会課題を解決する取り組みは、今後さらに多様化し、市場としても成長していく可能性を秘めている。

OiTrについてもっと知りたい方へ

]]>