高性能な家電製品で知られるダイソンが、私たちの髪の悩みに新たな解決策を提示した。2025年8月5日、同社は「Dyson Omega™ シリーズ」として、ヘアオイルと洗い流さないトリートメントスプレーの2製品を発表。この新シリーズは、乾燥や絡まり、うねりといった髪の課題に対し、自然由来成分でアプローチするものである。その背景には、一見すると関連性の薄い「農業」と「毛髪科学」という二つの分野の戦略的融合が存在する。
注目される背景・社会的な動き
ダイソンがヘアケア市場に参入した背景には、同社の長期的なビジョンと技術探求の精神がある。創業者のジェームズ・ダイソン氏は、「農業と美容という異なる分野を融合させ、自然由来成分で髪本来の健やかさを引き出す製品を開発した」と述べている。この言葉は、単なる製品開発に留まらない、素材の根源から美を追求するダイソンの徹底した探求心を示唆している。
同社は2012年以降、英国に広大な自社農場「ダイソンファーム」を保有し、環境保護と生物多様性に配慮したサステナブルな農法を推進してきた。サッカー場約2万面分に及ぶこの農場は、英国トップ5に入る農業事業としての規模を誇る。ここで小麦やジャガイモといった作物に加え、「Dyson Omega™ シリーズ」の核となるヒマワリが栽培されている。ダイソンは、この農場で60種類以上のヒマワリを試験栽培し、天然セラミドが豊富な品種を特定。土壌検査から微量栄養素の調整までを徹底管理することで、髪に最適な成分バランスを持つ種子を収穫している。これは、原材料から製品まで一貫して品質を管理し、持続可能性を追求するダイソンの企業戦略の一端である。
プロダクトやサービスの概要
「Dyson Omega™ シリーズ」の心臓部となるのは、「Dyson Oli7™ブレンド」である。これは、ダイソンファームで栽培されたヒマワリオイルに、厳選された6種類の植物由来オイル(オリーブオイル、アビシニアンオイル、コーンオイル、アボカドオイル、セサミオイル、マカダミアオイル)を独自にブレンドしたものである。
このブレンドに含まれるダイソンファーム産ヒマワリオイルは、オメガ6・9系脂肪酸(※2)が豊富であり、髪を深く潤し、キューティクルを整え、うねりや広がりを抑制する効果が期待される。軽やかな分子構造により、髪内部への迅速な浸透とベタつきにくい使用感が特徴である。
ラインナップは以下の2製品である。
- Dyson Omega™ ヘアオイル: シリコン不使用(※3)の高濃度ヘアオイルであり、髪にコンディショニング効果を与え、なめらかに整える。潤いの膜で髪を保護し、やわらかく扱いやすい髪へと導く。乾いた髪、またはタオルドライ後の髪に適用する。
- Dyson Omega™ リーブインコンディショニングスプレー: 1本で8つの機能を備えるスプレーである。髪に潤いを与えながら絡まりをほどき、なめらかに整え、広がりやパサつきを抑制する。さらに、熱や紫外線によるダメージから髪を保護し、切れ毛を防ぐことで、しっとりまとまりのある美しい髪へと導く。特に注目すべきは、ジェル状クリームがスプレーする瞬間に軽やかなミストへ変化する革新的なスプレー機構であり、均一かつ迅速な塗布を可能にする。濡れた髪、または乾いた髪に適用する。
(※1)セラミド:髪のキューティクル層にある脂質の一種で、髪の水分を保ち、バリア機能をサポートする重要な成分である。 (※2)オメガ6・9系脂肪酸:髪のうるおいやハリ、ツヤを保つのに必要な必須脂肪酸である。 (※3)シリコン不使用:一般的にヘアケア製品に配合されるシリコンは、髪の表面をコーティングすることで手触りを良くするが、ダイソンは自然由来成分による根本的なアプローチを選択したと言える。
ユーザーにとっての価値・導入メリット
「Dyson Omega™ シリーズ」は、単なるヘアケア製品に留まらず、ユーザーに多角的な価値を提供する。まず、乾燥やダメージ、うねりといった日常的な髪の悩みに、自然由来成分による根本的な解決策を提示する。忙しいビジネスマンにとって、朝のスタイリング時間を短縮し、一日中まとまりのある髪を維持できることは、生産性の向上にも繋がり得る。
また、同シリーズは機能性だけでなく、五感で楽しむ体験を提供する。スパークリングシトラス、グリーンティー、ベルガモットをトップノートに、ジャスミンとローズをミドルノート、ムスク、シダーウッド、オークモスをラストノートとする8つの香りが丁寧に調香されており、毎日のヘアケアを特別なリフレッシュの時間に変える。パッケージデザインも、自然由来オイルの色味が引き立つガラス製ボトルや、滑りにくい特別設計のキャップなど、細部にわたるユーザー目線の配慮が光る。これは、製品の性能だけでなく、使用体験全体を重視するダイソンのブランド哲学を反映している。
導入事例や今後の展望・市場性
現時点では、「Dyson Omega™ シリーズ」の日本での発売予定は未定である。しかし、ダイソンが家電分野で培った革新的な技術力と、サステナブルな農業への投資を融合させたこのアプローチは、美容業界に新たな潮流を生み出す可能性を秘めている。
「土」から生まれた恵みで髪の健康を追求するというコンセプトは、消費者の間で高まる自然志向やサステナビリティへの意識と合致する。ダイソンの異業種参入は、単なる製品ラインナップの拡充に留まらず、原材料の調達から製品開発、そして最終的なユーザー体験に至るまで、サプライチェーン全体での新たな価値創造モデルを提示している。今後、本シリーズが世界市場、特に日本市場でどのように展開されるか、その動向は、テクノロジーと自然が融合する未来のビジネスモデルを考察する上で、重要な示唆を与えるであろう。
]]>